研究概要 |
低比重リポ蛋白(LDL)の酸化は動脈硬化の発症・進展に重要であることはよく知られている。これまでの酸化LDL産生機構に関する研究で,生体内ではLDLの酸化が単なる自動酸化ではなく,LDLに含まれる不飽和脂肪酸の特異的酸化を触媒する酵素としてリポキシゲナーゼ(Lipoxygenase, LOX)の関与が強く示唆されている。私たちはこれまで,マウスマクロファージ様J774A.1細胞に過剰発現させた12/15-リポキシゲナーゼによってLDL内に過酸化脂質の増加を認め,その反応は酵素的におこること,この12/15-LOX発現細胞で産生された酸化LDLはマクロファージのスカベンジャー受容体で取り込まれることを明らかにしてきた。しかし,細胞内に存在する12/15-リポキシゲナーゼが,どのようにして細胞外のLDLを酸化するかについては明らかにされていない。細胞内の12/15-リポキシゲナーゼによるLDL酸化にはなんらかの細胞膜受容体が関与していることが推定されるので,その機構を解析するために以下の実験を行った。 12/15-リポキシゲナーゼを高発現させたマウスマクロファージ由来J774A.1細胞を,LDLあるいはコレステロール存在下で48時間前培養すると,LDL酸化能は低下し,逆にリポ蛋白除去血清との前培養では上昇した。この細胞のLDL受容体およびLDL receptor-related protein(LRP)の発現レベルは,先の培養条件の変化によって変動することがRT-PCRで示された。12/15-リポキシゲナーゼ発現細胞によるLDLの酸化は,LRPに対する抗体によって濃度依存的に抑制されたが,LDL受容体の抗体によっては阻害されなかった。さらに,LRPのアンチセンスオリゴヌクレオチドはLDL酸化能を抑制したが,LDL受容体に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドは無効であった。以上の結果から,LDL受容体やスカベンジャー受容体ではなく,LRPが細胞内12/15-リポキシゲナーゼによる細胞外のLDLの酸化に関与することが明らかになった。
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