研究概要 |
リポキシゲナーゼ(Lipoxygenase)は,不飽和脂肪酸に酸素を添加する酵素であり,マルチジーンファミリーを形成している。炭素数20個のアラキドン酸への酸素添加の位置の違いによって,5-,8-,12-,15-リポキシゲナーゼがある。5-リポキシゲナーゼは炎症や免疫に関与するロイコトリエンを生合成し,12/15-リポキシゲナーゼは動脈硬化症などの炎症性疾患において注目されている。動脈硬化病巣においては,低比重リポタンパク質(LDL)の酸化,酸化LDLの受容体やスカベンジャー受容体が重要である。しかし,酸化LDLの詳細な発生機構は不明である。生体内ではLDLの酸化が単なる自動酸化ではなく,脂肪酸の種類や位置特異性を示す酵素が関与することが示されている。このような不飽和脂肪酸の特異的酸化を触媒する酵素としては,リポキシゲナーゼしかない。そこで,12/15-リポキシゲナーゼの動脈硬化発症における病態生理機能の解明を目的として,この酵素をマウスマクロファージ様J774A.1細胞に過剰発現させて実験を行った。12/15-リポキシゲナーゼを過剰発現する細胞によってLDLが酵素的に酸化されること,この酸化LDLはスカベンジャー受容体に認識されることを明らかにした。さらに,細胞内に存在する12/15-リポキシゲナーゼによる血清中のLDLの酸化には,LDL受容体やスカベンジャー受容体ではなく,LRP(LDL receptor-related protein)が関与することを明らかにした。このマクロファージのLRPを介した12/15-リポキシゲナーゼによるLDL酸化機構を詳細に解析したところ,LRPがLDL粒子を細胞内に取り込むのではなく,LDL粒子中のコレステロールエステルのみを細胞膜に選択的に取り込むことが示唆された。さらに,抗12/15-リポキシゲナーゼ抗体を用いた実験により,この酵素が細胞質から細胞膜にトランスロケーションすることが示された。
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