神経発生過程は、(1)神経幹細胞の維持、(2)ニューロンの分化、(3)グリア細胞の分化に分けることができる。本研究では、これら3つの過程を制御する転写因子を明らかにした。 (1)神経幹細胞の維持およびグリア細胞の分化について 抑制性bHLH因子Hes1やHes5をレトロウイルスベクターを用いて強制発現させたところ、神経幹細胞に止まるかグリア細胞に分化した。一方、Hes1やHes5を欠損させると神経幹細胞が維持できなくなり、すべてニューロンに分化した。したがって、Hes1やHes5は神経幹細胞の維持およびグリア細胞分化に重要な役割を担うことが明らかになった。次に、Hes1の発現量をしらべたところ、mRNAおよび蛋白レベルともに2時間周期で増減を繰り返していた。この発現のオシレーションはネガティブフィードバックを介して自律的におこること、すなわちHes1は2時間周期の生物時計として機能することがわかった。この発現変動によって神経幹細胞に止まるか、ニューロンに分化するかの振り分けが行われることが示唆された。 (2)ニューロンの分化について 促進性bHLH因子Math3やMash1をレトロウイルスベクターを用いて強制発現させたところ、神経幹細胞はニューロンに分化した。一方、Math3-Mash1ダブルノックアウトマウスでは、神経系の多くの領域で幹細胞からニューロンへの分化がブロックされ、本来ニューロンになるべき細胞がすべてグリア細胞に運命転換していた。すなわち、Math3とMash1は幹細胞からニューロンへの運命決定を行うことが明らかとなった。ただ、bHLH因子のみでは特定のニューロンを形成させることはできず、ホメオボックス因子との組合せが重要であった。 以上の結果から、3つの神経発生過程のいずれもがbHLH因子によって制御されることが明らかとなった。
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