幹細胞の未分化性維持機構を探索するために、(1)ショウジョウバエgerm cell less遺伝子のマウスホモログのクローニングならびに遺伝子ターゲティングマウスの作成、(2)ショウジョウバエpiwi遺伝子のマウスホモログのクローニングならびに遺伝子ターゲティングマウスの作成、(3)がん抑制遺伝子PTENの始原生殖細胞特異的遺伝子ターゲティングマウスの作成、をおこなった。 マウスgerm cell less (mgcl-1)ターゲティングマウスでは、始原生殖細胞ならびに卵細胞の発生・分化は正常であったが、精子形成に顕著な異常が認められ、形態異常を呈する精子や生殖能力の低下が認められた。これらの異常は、核膜の構成成分であると考えられるmgcl-1タンパクが欠損することにより、核膜の異常が生じ、その結果、精子形成における核のリモデリングが障害されるために引き起こされるものと考えられた。 Piwi遺伝子のマウスホモログの一つであるmili遺伝子のターゲティングマウスを作成し、解析したところ、精細胞において分化が停止し、不妊になることがあきらかとなった。しかし、mili遺伝子の発現が認められる始原生殖細胞の段階では異常が認められなかった。 PTENの始原生殖細胞特異的欠損マウスにおいては、オスの新生仔全例において奇形腫の発生が認められた。また、培養系において、始原生殖細胞の増殖能の増加、ならびに、胚性生殖細胞の樹立効率が著しく増加した。メスにおいても低頻度ながら奇形腫の形成が認められた。 これら三つの遺伝子は、生殖細胞系列の幹細胞システムにおいて非常に重要な機能を有することがあきらかとなった。
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