研究概要 |
病的な心肥大・心不全などの心臓疾患は患者数が増加傾向にあるが、その原因は一部の遺伝子異常によるものを除いて不明な点が多い。本研究では、我々が開発した全身でCD38/サイクリックADPリボース(cADPR)情報伝達系を欠損する「CD38ノックアウト(KO)マウス」を用いて、この情報伝達系が心機能・心筋収縮に果たす役割を解明する。 (1)雄CD38-KOマウスの左心室は野生型マウスに比べ約20%重くなっていた(左心肥大)。 (2)雄CD38-KOマウスの左心室心筋繊維の太さを組織学的に検討すると、心筋繊維が野生型に比べ約20%太くなっており、これが左心肥大の原因と考えられた。 (3)野生型とCD38-KOマウスから心筋を分離し、0.5,1,2秒間隔で電気刺激を加え、筋張力を測定した。心筋張力は野生型とCD38-KOマウスで差が認められなかった。 (4)上述の心筋張力測定時に心筋に予めCa^<2+>蛍光剤Fura-2を取り込ませ、心筋内Ca^<2+>濃度を測定した。電気刺激時の細胞内Ca^<2+>濃度は野生型とCD38-KOマウスで差がなかった。 (5)野生型マウスとCD38-KOマウス心筋の細胞内Ca^<2+>動態に関与する蛋白質の遺伝子発現と蛋白レベルを検討すると、筋小胞体へのCa^<2+>の取り込みを担うSERCA2遺伝子とその蛋白レベルの上昇が認められた。 (6)雌マウスの心筋では(5)の変化に加えて、筋小胞体からのCa^<2+>放出チャンネルである2型リアノジン受容体(RyR2)の発現の増大が認められた。一方、雄マウス心筋ではRyR2の発現には変化が認められなかった。 以上の結果は雄のCD38-KOマウスの心肥大はCD38/cADPR系の欠損による心筋機能異常を代償するために細胞内Ca^<2+>のリサイクリングをより有効にするため、SERCA2が代償的に発現増大し、更に雌ではCa^<2+>放出そのものを増大させるためRyR2も発現が増大していると考えられた。雄ではRyR2の代償的発現増大が起こらないので、心筋繊維の肥大によってこれを代償していると考えられた。従って、CD38/cADPR系は心筋機能発現に重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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