研究概要 |
Ncx(Neural crest homeobox)はHOX11ファミリーに属するホメオボックス遺伝子で神経堤由来の組織に特異的に発現している。個体発生におけるNcx遺伝子の機能を解析するためにノックアウト(KO)マウスを作製した。約半数のKOマウスは生後2〜3週で巨大結腸症を発症し死亡した。KOマウスの腸管神経節神経細胞の数が増加しており、ヒトIntestinal Neuronal Dysplasia(IND)のモデルマウスと考えられた。このノックアウトマウスに見られた異常の病態生理についてさらに詳細に検討した。 1.正常の腸管神経節神経細胞は生後1〜2週で細胞死をおこして数が減少するが、KOマウスでは神経細胞死がおこらず、細胞数が増加していることを明らかにした。また巨大結腸症を発症していないKOマウスにおいても神経細胞数が増加することにより、消化管運動機能異常が起きていることを示した。さらにこのマウスの腸管の病理組織学的所見がヒトのINDと一致することを証明した(J.Pediatric Surg.2001)。 2.Ncx KOマウスは膀胱神経節神経細胞が増加しており、膀胱機能異常が認められた。また膀胱神経節細胞において一酸化窒素(NO)の産生が増加しておりNO合成酵素(NOS)の阻害剤投与により膀胱機能異常が改善された(J.Urology,2001)。 3.Ncxプロモーターが神経堤細胞特異的に発現するのを応用し、プロモーターに自殺遺伝子を組み込み神経芽細胞腫の治療モデルを確立した(Cancer gene therapy,2001)。 4.Ncx KOマウスと正常マウスの腸管神経細胞からそれぞれRNAを抽出し、これらを用いたRDA法によりNcx下流の標的候補遺伝子を検索、クローニングした。その1つはkelchファミリーに属する新しいアクチン結合蛋白をコードする遺伝子でNd1(Ncx downstream-1)と名付け機能解析を行っている(Biochem.Biophys.Acta,2001)。 5.Ncx遺伝子発現の組織特異性を決定する因子を調べるためにNcxプロモーター領域の組織特異性を決定するエレメントに結合する蛋白をyeast one hybrid法で同定している。現在数クローンの候補遺伝子を解析中である。
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