ヒト軟部肉腫では腫瘍特異的な染色体相互転座のために二つの遺伝子が互いに融合し、キメラ型転写因子が形成される例が多い。このようなキメラ型転写因子の標的遺伝子を包括的に同定しその機能を考察するために、Ewing肉腫と明細胞肉腫において、EWS-FLI1、EWS-ATF1が細胞内で結合するDNA配列を直接単離し標的遺伝子をDIGR法を用いて同定した。得られた候補遺伝子の腫瘍細胞における発現、さらにキメラ転写因子と野生型転写因子の導入による発現の差を検討した。その結果、明細胞肉腫においてEWS-ATF1の標的遺伝子としてPOSH、ATM、ARNT2、GPP34、NKX6.1、NYD-SP28の各遺伝子を同定した。EWS-ATF1はPOSHに対しては発現を抑制し、他の遺伝子については発現を活性化し、これらの転写調節能は野生型ATF1と異なっていた。POSHは明細胞肉腫では発現が抑制されでいるが、POSHを外来性に導入すると肉腫細胞のアポトーシスを誘導することが示され、EWS-ATF1がPOSHの抑制を介してアポトーシスを回避させることが腫瘍化の機構として重要である可能性が示唆された。さらにEwing肉腫においては、BCAR3、RPS18、p29がEWS-FLI1の標的遺伝子として同定され、DIGR法の幅広い応用が可能であることが示された。一方、最近染色体転座t(4;19)を有するEwing肉腫においてEWS-ETSとは全く異なる新しいキメラを同定した。このキメラはHMG boxを持つCICとdouble homeodomainを有するDUX4から成っていることが判り、Ewing肉腫形成において新しい分子機構が存在することを示した。今後EWS-ETSキメラとCIC-DUX4キメラの標的遺伝子の差異を検討することでこのような分子発生機構を解明する予定である。
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