研究概要 |
既に確立した肝内転移モデルと、LPA-Rho-p160ROCKを介した細胞運動性が肝内転移に重要な役割を果たしているという知見を基に検討を行った。高転移性肝がん細胞株KYN2はインテグリンを介した基質との接着によりカドヘリン系の不活化、細胞の分散、高い細胞運動性を示すが、このときαカテニンの減少と、c-Srcの活性化が認められた。この細胞に、c-Srcの機能抑制型遺伝子変異体を導入すると、ラフリングが消失し、stress fiberと明瞭な接着斑の形成がみられ、細胞運動能は低下した。C-Srcの活性化が、接着班のtumoverに関わっている可能性が示唆された。また、カドヘリン系、インテグリン系に細胞骨格系も合わさった複雑な相互作用が、がん細胞の運動性、そして浸潤・転移に深く関わっている事を示していると考えられた。また、別の高転移性肝がん細胞株Li7を用いたSCIDマウス肝内転移モデルにおいて、Rhoキナーゼ特異的阻害薬であるY-27632投与が肝細胞がんの肝内転移に対する治療として有効であることが示された。 異なる転移性を示す肝がん細胞株ならびに組織における遺伝子発現解析をDifferential Display法にて行い、同定された分子の浸澗・転移性への関与を、ヒトがん組織、転移モデルを用いて検討した。肝がんの非腫瘍部で高発現を示すcloneは、全長と推測されるcloneを得たが、novel geneであった。臨床パネルの検討では、門脈浸潤陽性症例、肝内転移陽性症例、低分化症例で腫瘍部の発現が有意に低下する傾向を示した。肝がんで高発現を示すcloneとして同定された4回膜貫通型蛋白tetraspaninの一つCO-029は、これまで報告されているCD9,CD82(KAI1)とは異なり、腫瘍部で高発現を示すと共に、転移を有する腫瘍で発現が亢進していた。免疫組織学的にもその傾向が確認された。転移性を示さないKIM-1細胞株に対して、CO-029遺伝子を安定的に導入し、軽度ではあるが転移性の獲得が認められ、CO-029の転移への関与が示された。
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