2000 年度実績報告書

母子感染による免疫寛容と腫瘍発生リスク

研究課題

研究課題/領域番号	12470052
研究機関	東京医科歯科大学
研究代表者	神奈木真理東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 教授 (80202034)
キーワード	免疫寛容 / 母子感染 / ウイルス / 感染免疫 / 腫瘍免疫 / HTLV-I
研究概要	ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)は日本で見い出された成人T細胞白血病(adult T cell leukemia,ATL)の原因ウイルスである。抗HTLV-I細胞性免疫応答の強さは個体によって大きく異なり、低応答性は腫瘍発生の助長因子であることが示唆されてきた。何が宿主の免疫応答の強さを決定するかは分かっていないが、一つの候補はHTLV-Iの感染条件である。HTLV-I感染の主経路は垂直感染である。その5%程度は胎内で、残りのほとんどが生後母乳を介し感染するとされている。このうち、胎児〜新生児期に暴露した抗原に対して免疫寛容がおこることは、新生仔ラットへのHTLV-I産生細胞MT-2接種実験で確認されている。また、蛋白抗原の摂取でも免疫寛容が誘導されることが知られているが、我々は、もう一方のHTLV-I感染経路である経口感染における免疫寛容の可能性を調べた。これには、新生児免疫寛容の可能性を除外するため成体ラットを用いた。成体ラットでは経静脈、経腹腔等の経路でMT-2細胞を接種した場合、明瞭な抗体および細胞性免疫応答を示した。しかし、経口投与の場合には、抗体陰性のHTLV-I持続感染が成立した。これらの個体では細胞性免疫も低レベルであった。これらのことから、初感染時のHTLV-I感染条件は大きく個体の特異的免疫応答に影響することが分かる。次に、持続感染成立後の生体内ウイルス量を定量するため組織からDNAを抽出しPCR定量を試みた。PCRにはHTLV-I Tax部位の蛍光ラベルプライマーを用いた。ラットの持続感染ウイルス量はヒトのそれより低く精度にはまだ改善の余地があるが、経口感染ラットでは他の経路で感染したラットより持続感染ウイルス量が高い結果を得た。ラットでの現象をそのままヒトに投影することはできないが、ヒトの垂直感染児は胎内〜母乳感染しそのなかに長期間抗体陰性を保つ例が存在する点では共通性がある。HTLV-I感染量、感染時期、暴露期間等により様々なレベルの免疫寛容がヒトにもにも起こっている可能性は十分考えられる。

研究成果
(5件)

すべてその他

すべて文献書誌 (5件)

[文献書誌] T.Ohashi,S.Hanabuchi,H.Kato,H.Tateno,H.Takemura,T.Tsukahara,Y.Kova,A.Hasegawa,T.Masuda,and M.Kannagi.: "Prevention of adult T cell leukemia-like Iymphoproliferative disease in rats by adoptively transferred T cells from a donor immunized with human T cell leukemia virus type I Tax-coding DNA vaccine."J.Virol.. 74. 9610-9616 (2000)
[文献書誌] M.Kannagi,T.Ohashi,S.Hanabuchi,H.Kato,Y.Koya,A.Hasegawa,T.Masuda,and T.Yoshiki.: "Immunological aspects of rat models of HTLV-type I-infected T lymphoproliferative disease."AIDS Res.Hum.Retroviruses. 16. 1737-1740 (2000)
[文献書誌] S.Hanabuchi,T.Ohashi,Y.Kova,H.Kato,F.Takemura,K.Hirokawa,T.Yoshiki,H.Yagita,K.Okumura,and M.Kannagi.: "Development of human T cell leukemia virus type I (HTLV-I)-transformed tumor in rats following suppression of T cell immunity by CD80 and CD86 blockade. "J.Virol.. 74. 428-435 (2000)
[文献書誌] 神奈木真理: "HTLV-Iリンパ腫瘍と免疫"現代医療. 32(12). 2755-2760 (2000)
[文献書誌] 神奈木真理: "ウイルス感染より見た免疫応答、HTLV-I."臨床と微生物. 27. 053-058 (2000)

2000 年度 実績報告書

母子感染による免疫寛容と腫瘍発生リスク

研究代表者

神奈木 真理 東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 教授 (80202034)

研究成果

[文献書誌] M.Kannagi,T.Ohashi,S.Hanabuchi,H.Kato,Y.Koya,A.Hasegawa,T.Masuda,and T.Yoshiki.: "Immunological aspects of rat models of HTLV-type I-infected T lymphoproliferative disease."AIDS Res.Hum.Retroviruses. 16. 1737-1740 (2000)

[文献書誌] 神奈木真理: "HTLV-Iリンパ腫瘍と免疫"現代医療. 32(12). 2755-2760 (2000)

[文献書誌] 神奈木真理: "ウイルス感染より見た免疫応答、HTLV-I."臨床と微生物. 27. 053-058 (2000)

2000 年度実績報告書

神奈木真理東京医科歯科大学, 大学院・医歯学総合研究科, 教授 (80202034)