研究概要 |
種々のウイルスが胎盤、産道、母乳を介して母児感染することが知られている。B型肝炎ウイルス(HBV)、AIDSウイルス(HIV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I, human T cell leukemia virus type I)等がこの例である。これらのウイルスは持続態染性であり、感染者は生涯病原体を持ち続けることになる。このうち、HTLV-Iは本邦で発見された成人T細胞白血病(ATL, adult T cell leukemia)の原因ウイルスであり全国に100万人の感染者がいる。HTLV-IはATLの他にも神経疾患HAM/TSP(HTLV-I-associated myelopathy/Tropical spastic paraparesis)や自己免疫様疾患等を引き起こす。このような多彩な病態には宿主免疫応答の強弱が関与することが示唆されている。HTLV-I感染の主要経路は母乳を介した経口感染であることが疫学的に示されているが、一部には胎内感染も証明されている。母子感染の経路・感染量・感染時期には個人差があり宿主免疫に影響することが考えられる。宿主免疫のうち細胞性免疫の減弱は腫瘍に対するリスクファクターとなる可能性が高い。 本研究では、ラットを用いてHTLV-Iの経口感染および垂直感染の実験系を作成し、宿主免疫にどのような影響を与えるか調べた。その結果、経口感染および垂直感染のいずれにおいてもHTLV-I持続感染が成立し、個体における細胞性免疫は低レベルであることが明らかになった。更に詳細なレベルの解析が必要ではあるが、本研究は、ヒトにおけるATL発症リスクの一つである細胞性免疫低応答の成因の一つとして母子感染条件を挙げる実験的根拠となるものである。
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