研究概要 |
サイトメガロウイルス(CMV)が発育期脳に感受性があり、発育するに従って感受性が低下し抵抗性を獲得する理由を明らかにするため、私達は大脳スライス培養法を確立し、そこへMCMVの後期遺伝子のひとつにβ-galactosidaseが挿入された変異ウイルスを感染させて解析した。生後週令が進んだマウス脳からの大脳スライスほど感染感受性が低下した。週令が進んでも、脳室壁と大脳皮質辺縁に感染感受性細胞が限局して残る傾向が認められた。これらの細胞はGFAP、nestin陽性でグリア系神経前駆細胞であった。MCMVに対する脳の感受性はこれらのグリア系神経前駆細胞の量に相関することが定量的解析から明らかになった。これらの神経前駆細胞は大脳スライス培養を続けると増殖し、またMCMVに感受性を示した(Kawasaki et al.,Lab Invest,2002)。私達はCMVがマウス脳で潜伏感染し、大脳スライス培養によって再活性化することを初めて示した。周産期および生後6週令のマウス脳へ、変異MCMVウイルスを感染させた。感染後6カ月して脳を取り出し、大脳スライス培養を行った。培養3週目の大脳スライスをX-Gal染色すると、大脳辺縁部および脳室壁にX-Gal陽性細胞が検出された。周産期感染マウスでは75%に再活性化を認めたが、6週令感染マウスでも約75%に再活性化を認めた。しかし、6週令感染マウスでは再活性化してくる細胞の数が有意に少なかった。再活性化してくるX-Gal陽性細胞を神経組織特異抗原との二重染色の結果、神経前駆細胞と考えられた(Tsutsui et al.,J Virol,2002)。周産期マウス脳へMCMVを感染するとNatural Killer(NK)細胞が脳室壁のグリア系感受性細胞に反応してinnate immune反応が起こるが、感染が進行すると神経細胞でMCMV早期抗原が発現するようになり、これらの神経細胞はinnate immune反応が起こりにくく、持続感染へと移行する可能性が示唆された(Kosugi et al.,Am J Pathol,2002)。
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