研究概要 |
Trypanosoma cruziのピリミジン合成遺伝子は、5'側からpyr1、pyr3、pyr6/5(融合遺伝子)、pyr2、pyr4の順に染色体DNA上に配列してpyr遺伝子クラスターを構成している。本クラスターは我々が生物界で始めて発見したものであり、平成12〜13年度は主に、他種生物と異なるこれら全遺伝子の独特な特徴および第1〜3酵素のタンパク質間相互作用について解析し、重要な知見を得た。平成14年度は、第1酵素CPSIIの過剰発現原虫株、第4酵素DHODの相同組換えによるノックアウト原虫株および、組換えDHODアッセイ系を応用した酵素活性阻害物質の探索をおこなった。本原虫DHOD遺伝子は3コピー存在する(Tulahuen株)ので、これらをhygromycin, tunicamycin, Phleomycin耐性遺伝子で順次置き換えDHOD遺伝子の破壊を試みたところ、第2回のノックアウトによって原虫は生育できなくなった(致死的)ことから、本酵素は生存に必須であることが分かった。そこで、抗腫瘍性の生理活性物質等を含む海草類の抽出物をDHODアッセイ系に添加し、酵素阻害物質を検索した。81種類の海草の内、ヒバマタ・エゾイシゲのメタノール抽出液に強い阻害作用が検出され、両褐藻の抽出液1/50量の添加によりDHOD活性は80%以上阻害された。さらに、トリパノソーマ用シャトルベクターpTEXにT. cruziのCPSII遺伝子を組込み、本原虫に導入して増殖速度や感染マウスでの原虫密度parasitemia、マウスの死亡率等を調べたところ、高いparasitemiaや死亡率の上昇が認められた。したがって本酵素(ピリミジン塩基生合成経路の律速酵素)の過剰発現原虫株では病原性が上昇した可能性が考えられた。T. cruziの第5、第6酵素(OPRT, OMPDC)については詳細な解析に至らなかったが、ゲノムプロジェクトが終了したマラリア原虫との比較検討など、きわめて重要で興味深い課題が残されており、その線に沿った研究が進行中である。
|