研究概要 |
【目的】脳血管周細胞は血管内皮細胞などとともに脳・血管関門を構成する。脳血管周囲細胞へのヒト免疫不全ウイルス1型(Human immunodeficiency virus type-1,HIV-1)の感染は、エイズ脳症の発生機序と密接に関連すると考える。本研究では、HIV-1の脳血管周細胞指向性を決めるコレセプターとして同定したGPR1の機能に重要な領域の同定を試みた。【方法】(1)HIV-1はコレセプターのN端領域(N-terminal region, NTR)と3つの細胞外ループ(extracellular loop, ECL)との相互作用で細胞に侵入する。PCR(polymerase chain raction)法を用いてGPR1のNTR、第1ECL、第2ECL,および第3ECLをコードする遺伝子断片を増幅し、マクロファージ指向性を決定するコレセプターであるCCR5との間でキメラ遺伝子を作製した。(2)GPR1のN端領域の機能を知るために、PCR法で様々なアミノ酸欠失および置換を導入した。(3)キメラ遺伝子と変異GPR1遺伝子を、HIV-1非感受性ヒトグリオーマ由来CD4発現NP-2/CD4細胞株に導入し、安定発現細胞を樹立した。(4)HIV-1株、HIV2型(HIV-2)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)に対するキメラおよび変異GPR1発現NP-2/CD4細胞の感受性を測定した。【結果】(1)GPR1のECLをひとつでもCCR5のECLに置換すると、コレセプター活性が完全に失われた。(2)GPR1とCCR5の間でNTRを置換したキメラでは、コレセプター活性が保持された。(3)GPR1のNTRの4つのチロシン残基のうち、最もN端側の残基をアラニンに置換すると、HIV1株に対するコレセプター活性が失われた。(4)NTRを完全に欠失させると、GPR1のコレセプター活性は失われたNTRのN末端から最初のチロシン残基の直前までの11アミノ酸を欠失させても、コレセプター活性は保持された。【結論】(1)GPR1のコレセプター機能にはNTRが極めて重要である。(2)コレセプター機能にほNTRのN端から11アミノ酸はとんど関与せず、チロシン残基を含む狭い領域が特に重要である。今後、GPR1のコレセプター機能に重要なモチーフ構造を特定し、脳血管周細胞のHIV-1感染の分子機序の解明に取り組むとともに、その成果を抗HIV剤の開発に応用していく予定である。
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