ヒトT細胞白血病ウイルスがコードする遺伝子Taxは細胞の種々の遺伝子を転写制御することが知られている。一方、TAXはヒトT細胞を不死化する働きがある。TAXの転写制御と不死化との関連を明らかにするために、TAXの転写制御の機構を解析した。その結果、TAXは転写コアクチベーターと会合すること、その結果細胞の標的遺伝子を直接転写活性化、あるいは抑制することが分った。一方、転写コアクチベーターと会合する結果、細胞の遺伝子を感染的に転写抑制することも明らかにした。さらにTAXは転写コレプレッサーと会合することを見い出した。このことはTAXが転写コアクチベーターのみならず転写レプレッサーとも会合して細胞側遺伝子発現を制御していることを示唆している。TAXによる細胞周期関連遺伝子産物の機能制御を解析した。TAX産生細胞ではサイクリンインヒビターp21の産生が増加している。p21はサイクリン/CDKの活性を抑制しその結果細胞周期をとめる働きを持つが、TAXで不死化した細胞ではそのようなことは起こらない。COS細胞にp21を強制発現させ、サイクリン/CDKの活性を調べると、キナーぜ活性は抑制された。そこにTAXを産生させてもキナーゼ活性の回復は見られない。しかし、HTLV-1で不死化した細胞におけるサイクリン/CDK活性ではキナーぜ活性が抑制はされていない。このことからHTLV-1で不死化した細胞ではサイクリン/CDKの機能が他の細胞とは異なる機構で活性化状態を維持していると考えられた。
|