Tリンパ球分化には、前駆細胞の胸腺移住、レパトア選択に伴う胸腺皮質から髄質への移動、成熟Tリンパ球の胸腺外移出といった細胞移動が必須である。しかしこれら細胞移動の制御機構は殆ど不明である。本研究では、マウス胎仔胸腺器官のリアルタイム観察技術を開発することで、胸腺からのTリンパ球移出機構を解析した。その結果、ケモカインのひとつCCL19が成熟Tリンパ球の胸腺移出を著明にひきおこすことを見いだした。一方、CCL19受容体CCR7のノックアウトマウスでは、新生仔期における脾臓T細胞数の著明な減少と胸腺T細胞数の有意な増加が観察された。脾臓T細胞数の減少は白色髄ばかりでなく開放循環系に属すると考えられている赤色髄でも観察されたことから、胸腺から血流循環へのTリンパ球放出に不全があると考えられた。このとき、成体CCR7ノックアウトマウスでは脾臓T細胞の減少はみられず、新生仔期に優位のCCR7依存性の胸腺外移出機構の他に、CCR7非依存性の胸腺外移出機構の存在も示された。また。正常マウス胸腺内でのCCL19の発現をin situ hybridization法および免疫染色共焦点法にて解析した結果、CCL19は主に髄質の上皮細胞によって産生されるが、CCL19タンパクは主に髄質内の血管内皮細胞や血管周囲間充織細胞に多く存在していることが明らかになった。また。ヒト胸腺においても髄質および血管内皮でのCCL19の発現が観察された。以上の結果から、CCR7およびそのリガンドは新生仔胸腺にて成熟したTリンパ球が胸腺外へと移出するために主要な機能分子であることが示された。また、CCR7リガンドは髄質の血管内皮や血管周囲間充織に成熟Tリンパ球を誘引することで胸腺移出に関与する可能性が示唆された。加えて、CCR7に依存しない成熟Tリンパ球の胸腺外移出機構の存在も明らかになった。
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