生体防御の司令塔として自己・非自己の識別を担うTリンパ球の分化とレパトア選択を制御するシグナル伝達機構を解析した。その結果まず、(1)幼若Tリンパ球の負の選択におけるアポトーシス誘導に必須の転写因子Nur77は、正の選択誘導シグナルによって活性化されるセリンスレオニンキナーゼAktによってリン酸化され、Nur77としての転写活性が抑えられることがわかった。この結果は、正と負の選択における細胞生死運命分岐にAktによるNurr77のリン酸化という制御スイッチが存在することを示し、Tリンパ球のレパトア選択における細胞運命決定に新たなシグナル制御機構が存在することが明らかになった。また、(2)Tリンパ球の分化と選択を支持する胸腺環境を形成・維持する分子シグナルを解明すべく、ケラチン5プロモータを用いたCre/loxP遺伝子ターゲティング法を利用することにより、胸腺で上皮細胞特異的に遺伝子を改変する技術を開発することができた。この方法を用いることで、胸腺上皮細胞内のStat3は、成体の胸腺器官におけるTリンパ球分化支持能の維持に必須の役割を果たすシグナル伝達分子であることが明らかになった。更に、(3)Tリンパ球の分化と選択に伴う細胞の移動機構を解析するために、経時的に細胞動態を可視化しうる胸腺器官培養法を開発した。この新手法を用いることによって、胸腺髄質上皮細胞の産生するCCR7リガンドが髄質内の血管周囲間充織細胞に局在して新生仔期のTリンパ球胸腺移出に必須の関与を示す分子シグナルであることを明らかにした。
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