研究概要 |
1.前年度に確立した周産期砒素曝露条件に基づき,マウスの妊娠7〜16日に無機砒素の経口投与を行い(7.5あるいは15mg/kg),妊娠17日齢で解剖し,胎仔への砒素分布,砒素との相互作用が知られているセレン(Se),および含Se酵素の活性を測定した.その結果,肝臓では母体・胎仔ともにAs投与群ではSe濃度が量依存的に低値となった.脳では母仔ともにAs投与による変化を認めなかった.Se依存性のグルタチオンペルオキシダーゼ活性は母体肝のみで低値,胎仔肝,母体脳,胎仔脳では対照群と変わらなかった.チオレドキシンレダクターゼは,胎仔肝ではAs投与群が対照群より高く,胎仔脳でも高値の傾向にあった. 2.行動影響として,マウス妊娠期に飲料水を通じてAs(10あるいは100ppm)に曝露し,胎仔・新生仔の成長に及ぼす影響および出生後の運動機能発達への影響を検討した.その結果,Asによる仔の身体的成長への影響は認められなかった.一方で,As曝露群では歩行運動の前駆的運動であるピボッテイングおよびcliff avoidanceという感覚-運動協調機能の発達が遅れることを見出した.また,仔が8週齢の時点におけるオープンフィールド行動でも対照群より活動量が減少する結果を得た. 3.妊娠初期よりセレン欠乏としたラットの妊娠末期に微量のAsを投与し,その組織移行をマルチトレーサーを用いて検討した.その結果,対照群ではAsが胎仔にほとんど移行しない条件でも,セレン欠乏群では胎仔の肝臓へのAsの分布が認められ,両者の相互作用があることが確認された. 以上のように,無機砒素が母体・胎仔にgrossな影響を与えないレベルで,行動機能あるいは微量元素代謝などでみると次世代への影響を及ぼすことが示された.次年度以降は,このような影響の意義と機序の解明を目指す.また,古くから指摘されていたAsとSeとの相互作用が栄養レベルのSeでも明確に観察され,Se欠乏条件では次世代影響が増悪する可能性が示唆された.
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