| 研究概要 |
環境発がんのリスク評価を検討する場合,発がん性を有する化学物質への暴露量を正確に把握することが最も重要であるが,それ以外に個々人の持つ遺伝的素因やライフスタイル等を考慮することも重要である.3,4-ベンゾピレンに代表される多環芳香族炭化水素(PAH)の発がん性は古くより知られているが,これらの化学物質に過剰暴露されると,その代謝中間体がDNAと共有結合してDNA付加体を形成したり,あるいは代謝過程で活性酸素を発生して酸化的DNA損傷を引き起こし,その結果,がん化のinitiationが生ずると考えられる.そこで本研究では,比較的PAHへの暴露量が高いと思われるコークス炉作業者(約160名)を対象群に,一般作業者(約60名)をコントロール群に設定して,両群よりインフォームドコンセントを得た上で少量の血液及び尿を採取し,血液試料からは白血球DNAを抽出し,その後の実験に用いた.PAHへの内部暴露量を出来るだけ正確に知るために,尿中に排泄される1-ヒドロキシピレン(1-OHP)量をHPLCにより測定して,その値を内部暴露量の指標とした.次に,上記DNAサンプルを用いて,32P-ポストラベリング法によりDNA付加体量を,本研究経費で購入した電気化学検出器(ECD)を付したHPLC法により8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8OHdG)量を測定した.更には,PAHの代謝に関与する酵素であるCYPlA1およびGSTの遺伝子多型をPCR法により解析した.これらの成績を基に,相互関連性を検討したところ,DNA付加体量はPAHの体内暴露指標である尿中1-OHPに比例し,またCYP1A1の遺伝子多型の影響を受けること,DNA付加体と8OHdGは弱いが有意な正の相関があること等が明らかとなった.
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