研究概要 |
我々はこれまで,L-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)が酵母におけるメチル水銀の標的分子であることを明らかにしてきた。そこで,ヒト組織由来の培養細胞を用いてメチル水銀毒性とGFAT活性との関係を検討した。酵母ではGFAT反応の産物であるグルコサミン-6-リン酸を細胞内に供給することによってメチル水銀の細胞毒性が顕著に軽減されるが,今回,HeLa細胞を用いて検討したところグルコサミン-6-リン酸の供給によるメチル水銀毒性の軽減はほとんど観察されなかった。また,酵母の場合にはGFATの高発現によってメチル水銀の毒性発現が顕著に抑制されたことがら,ヒト腎由来の293E細胞にGFAT遺伝子を導入して,GFATを安定に高発現する細胞株(GFAT/293)を作製しメチル水銀に対する感受性を調べたが,GFAT高発現細胞はメチル水銀耐性をほとんど示さなかった。GFAT反応の産物であるグルコサミン-6-リン酸は糖鎖を構成する全てのアミノ糖合成の原材料となる。そこでHeLa細胞の糖鎖合成に対するグルコサミン添加の影響を、Oー結合型N-アセチルグルコサミン(OーGlcNAc)量を指標に、これを認識するRL2抗体を用いたウエスタンブロット法により検討したところ,メチル水銀存在下においてもO-GlcNAc含有糖鎖のグルコサミン添加による増加が観察された。したがって,メチル水銀存在下においてもグルコサミンからグルコサミン-6-リン酸への変換反応は進行しているものと思われる。以上の結果は,少なくともHeLa細胞においてGFATがメチル水銀の標的分子ではない可能性を示唆している。
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