研究概要 |
我々はL-グルタミン:D-フルクトース-6-リン酸アミドトランスフェラーゼ(GFAT)が酵母におけるメチル水銀の標的分子であることを明らかにした。そこで,ヒト組織由来の培養細胞を用いてメチル水銀毒性とGFAT活性との関係を検討した。酵母ではGFAT反応の産物であるグルコサミン-6-リン酸を細胞内に供給することによってメチル水銀の細胞毒性が顕著に軽減されるが,今回,HeLa細胞を用いて検討したところグルコサミン-6-リン酸の供給によるメチル水銀毒性の軽減はほとんど観察されなかった。また,ヒト腎由来の293E細胞にGFAT遺伝子を導入したGFAT高発現細胞はメチル水銀耐性をほとんど示さなかった。以上の結果は,少なくともHeLa細胞においてGFATがメチル水銀の標的分子ではない可能性を示唆している。そこで、GFAT以外の分子を検索したところ、ユビキチン転移酵素Cdc34をコードする遺伝子CDC34の高発現が酵母にメチル水銀耐性を与えることが判明した。これまでにユビキチンシステムとメチル水銀毒性の関係に関する報告はないことから、本知見はメチル水銀毒性を考えるうえでも大変興味深い。このCdc34に様々な変異を与えた変異CDC34遺伝子を酵母内で発現させることによって、メチル水銀耐性獲得に必要な機能ドメインの検索を行ったところ、Cdc34のユビキチン転移酵素としての機能がメチル水銀耐性獲得に必須であることが明らかとなった。以上の結果から、ユビキチンシステムはメチル水銀に対する防御因子として重要な役割を果たしているものと考えられ、この機構にメチル水銀の標的分子が関与している可能性も考えられる。
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