研究概要 |
多胎児虐待症例では,一方の児のみが虐待される危険が高く,その背景に多胎児に対する親の愛着感情の偏りが共通して存在していることが指摘されている。本研究では,多胎児に対する母親の愛着感情の偏りの発生状況とその関連要因について検討し,以下の結果を得た。 1.多胎児の母親のうち,多胎児に対し同じようにかわいいとは感じないと答え,愛着感情の偏りが生じていると考えられた母親は全体の10.0%に認められた。さらに,そのうち5.6%の母親がはっきりと多胎児の中でかわいがりにくい児がいると答えていた。 2.同じようにかわいいとは感じないと回答した母親はどの多胎児も同じようにかわいいと感じると回答しな母親よりも有意(p<0.05)に健康状態が悪化しており,同じようにかわいいとは感じないと回答した母親の36.4%が医者にかかっていないが具合がよくない,あるいは受療中の状態であった。また,上気道感染に頻繁に罹患する者も同じようにかわいいと感じないと回答した者に有意(p<0.01)に多く認められた。 3.疲労状態においても,同じようにかわいいと感じないと答えた母親は,同じようにかわいいと感じると答えた母親よりもCSFIにおける気力減退を除く全ての特性,ならびに身体的疲労・精神的疲労の5段階評定で有意に重度の疲労感を感じていた。愛着感情の偏りの認められた母親では,睡眠状態がより悪化しており,どの多胎児も同じようにかわいいと感じると答えた母親では睡眠時間が平均6.39時間であるのに対し,同じようにかわいいとは感じないと答えた母親では平均5.89時間と有意(p<0.05)に短かった。 4.同じようにかわいいとは感じないと答えた母親では,障害のある多胎児を有する比率が有意(p<0.01)に高かった。
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