自衛官の定年退職前健康診断で得られる詳細な医学検査データと喫煙、飲酒、運動、食事などの生活習慣要因に関するデータを結合させたデータベースを継続的に構築した。対象者はほとんどが50歳代前半の男性自衛官である。以下の研究成果が得られた。 1.糖尿病がS状結腸線腫リスクの高まりと関連していることを以前に報告していたが、全大腸内視鏡検査が導入されたので耐糖能と大腸線腫との関連性を部位別及び大きさ別に検討した。独立した2つの研究対象において、糖尿病と関連した右側結腸線腫リスクの高まりを観察した。左側結腸あるいは遠位部大腸線腫については糖尿病との関連は見られなかった。 2.脂質代謝と関連するアポ蛋白E、発がん物質の解毒酵素及び葉酸代謝酵素の遺伝子多型と大腸線腫との関連を検討した。統計的に有意な関連は見られなかったが、アポ蛋白ε4アレルが右側結腸線腫に予防的であり、葉酸代謝酵素遺伝子多型と血漿葉酸値の相互作用が示唆された。 3.大腸発がんにおける血漿インスリン様増殖因子IGF-1と結合蛋白IGFBP-3の関与が注目されている。IGF-I高値の者で大腸線腫リスクの軽度の高まりが観察され、この高まりはIGFBP-3及び負荷後2時間血糖値の調整後より顕著であった。また、肥満がIGF-I及びIGFBP-3と強く関連しており、肥満度とIGF-IあるいはIGFBP-3との関連性が集団によって異なる可能性が示唆された。 4.大腸がんと胆石症は一部共通の原因に起因している可能性があり、胆石形成の関連要因を明確にすることは大腸発がん要因を考える上で重要である。喫煙と胆石との間に明らかな関連は見られなかったが、飲酒が胆石に予防的であることが観察された。また、コーヒーあるいはカフェインが胆石に予防的であるとする仮説に対して否定的な結果を得た。また、耐糖能障害と糖尿病が肝機能障害と強く関連していることを観察した。
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