本研究の目的はアルコール依存症(A症)に関連する神経精神症状の発症機序を、社会医学的、病理学的、行動薬理学的実験研究を通して、A症の発症機序を分析し、得られた結果をその予防、治療に資することにある。初年度の研究:(1)社会医学的研究;当教室及び監察医務院にて我々が検案・解剖を行ったA症に関する疫学的研究、特に、A症が現在、低年齢層、女性、高齢者に広まっている現実を把握し、A症の社会医学的背景を検討した。(2)病理学的研究:A症の剖検例にて直接死因を検討した。A症の肝臓病変と脳病変の対応を検討し、A症発症に関して、アルコールの神経組織に対する障害を一次的障害と二次的障害に分けて検討し、一次的損傷として、脳報償である中脳辺縁系ドーパミン作動系の変化を認めた。二次的損傷として、代謝性脳障害、特に、ウエルニッケ脳症と、脳挫傷、大脳皮質萎縮などが重要であった。(3)行動薬理学的実験研究;アルコール摂取時に脳報償系の中脳腹側被蓋野一側座核ドーパミン神経系の機能亢進がA症形成に正の強化として作用することを検討し、さらに、慢性的なヒト・アルコール依存形成に対応する実験をおこない、ドーパミン活性亢進とセロトニン活性抑制を確認し、形態学的には、中脳辺縁系ドーパミン作動系にc-fos蛋白の発現が極めて顕著に認められた。以上、初年度の研究は、社会医学的、病理学的、実験的研究を行い、次年度に向ける。
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