研究概要 |
軽度の出血性ショック状態に陥った患者が、治療行為によって一時的に救命されても多臓器不全によって死亡することが少なくない。この緩徐な出血での出血性ショックから多臓器不全へと移行する機序の解明を目的として多面的な検討を行い,以下の結果を得た。 (1)軽度の出血(20分間で全血量の16.7%の脱血)によって、平均血圧は脱血前76±13mmHgから脱血直後35±7mmHgへと有意に低下し、その後徐々に昇圧し、脱血60分後以降では対照群との有意差は認められなくなった。心拍数も類似の経過を示した。脱血5時間後までに血清クレアチニンと血清尿素窒素が上昇したことから経時的な腎機能の低下が明らかとなり、さらに腎組織の形態学的傷害像が認められた。血清TNFαは脱血1時間後に一時的に上昇し、腸管血流量の減少を伴った腸管粘膜バリアの障害も認められた。 (2)FR167653はp38MAP kinase活性阻害によって細胞内遺伝子からのTNFα発現抑制剤である。このFR167653は上記の脱血による血中TNFαの上昇を抑制し、腎機能障害や形態学的傷害像ならびに腸管透過性の発生を阻止した。 (3)一酸化窒素合成酵素(iNOS)拮抗剤であるs-methylisothioureaおよびaminoguanidineは、上記の脱血による腎機能障害を抑制した。 したがって、軽度の出血性ショックにおける腎障害の発生に対して、p38 MAP kinaseが関与し、TNFαが重要な役割を果たすことが明らかとなった。さらにこの機序に腸管粘膜バリア障害による腸管でのBacterial Translocationが関与する可能性が考えられた。また,この腎障害に対するiNOSの関与も推測された。
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