本研究は胆汁酸の免疫調節作用を転写因子farnesoid X receptor(FXR)とNF-κBなどによる制御から解明しようとするものであり、平成12年度から平成14年度の3年間で計画されている。本年度は、胆汁酸によるFXRとNF-κBの細胞内存在様式および活性化機構について検討した。 (1)FXR:FXRは核受容体の一つであり、その分子構造はN末端から転写調節部位、DNA結合部位、リガンド結合部位の順で構成されており、各部位を欠損させたmutantを肝細胞内に発現させることによる検討から、核移行シグナルはDNA結合部位とリガンド結合部位との結合部位(hinge部位)に存在すること、C末端側にリガンドである胆汁酸の結合する部位が存在することが明らかとなった。また、FXRは胆汁酸非存在下においても核内に存在し、核移行シグナルが重要な役割を果たしていることが解明された。 (2)NF-κB:NF-κBは様々な免疫分子を活性化することが知られている。そのNF-κBを胆汁酸は直接活性化することを明らかにした。すなわち、胆汁酸はNF-κBの抑制分子であるIκBαを分解することによってNF-κBの核移行を可能にし活性化している。また、NF-κBの構成蛋白はp65とp50のヘテロダイマーであり、胆汁酸はその標的遺伝子の一つであるケモカインRANTESを転写レベルで調節し、肝への炎症細胞浸潤を担っていることが明確となった。さらに、胆汁酸によるNF-κBの活性化に細胞内の酸化ストレスが重要であることが明らかとなり、肝細胞におけるレドックス制御がNF-κBの活性化を調節する可能性が示唆された。
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