短鎖脂肪酸、特に酪酸による腸管上皮細胞機能の修飾に関与する分子機構を明らかにする目的で、本年は、種々の炎症刺激により腸管上皮細胞に誘導される遺伝子の安定性に対する効果を検討した。昨年までの研究により、酪酸がTNF-αなどにより誘導されるIL-8遺伝子の発現を転写レベルで抑制することをみいだしてきた。すなわち、IL-8のプロモター領域をルシフェラーゼ遺伝子の上流にcloningして、HT-29細胞に導入してプロモーターアッセイより、酪酸の強い転写抑制作用が明らかになった。今年は、まず、HT-29細胞をTNF-αで刺激して、その後酪酸を添加して、IL-8mRNAの安定性をNorthern blotにて検討した。その結果、酪酸は、TNF-αにより誘導されるIL-8 mRNAの安定性には影響しなかった。これらの結果は、酪酸の抗炎症作用は、NF-κBの活性化の抑制による転写レベルでの作用により発揮されているものであることが示された。ヒストン脱アセチル化酵素の阻害により強力にヒストン蛋白のアセチル化を誘導するトリコスタチンAにも同様の効果を認めたことから、酪酸の効果の一部はヒストン蛋白のアセチル化により担われたものと考えられた。
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