本研究では、短鎖脂肪酸とくに酪酸の抗炎症作用とその分子機構について解析し、潰瘍性大腸炎の新たな治療法の確立を目指した。酪酸は腸上皮細胞のTNF-α刺激によるC3の産生は増強したが、逆にfactor BやIL-8の産生は抑制した。酪酸は、TNF-αにより誘導されるNF-κBとAP-1の活性化を張力に抑制する一方、NF-IL6の活性化を増強した。また、Sp1の活性化については何ら効果を認めなかった。その活性化の抑制は強力な抗炎症作用を発揮するものと考えられる。酪酸の効果は、これらの転写因子の関与のバランスのうえにさまざな遺伝子の発現をcontrolしているものと考えられた。トリコスタチンAは、NF-κBに対する抑制効果は示さなかったが、酪酸と同様にC3の産生を誘導したが、IL-8やfactorBの抑制効果は認めなかった。これらの結果は、C3の産生誘導については酪酸においてヒストン蛋白のアセチル化の効果が発揮されていること、IL-8やfactorBの抑制効果については、NF-κBやAP-1などの転写因子活性の抑制に依存した効果であると考えられた。酪酸の抗炎症効果が確認されたため、我々は、臨床への応用を試みている。この報告書にも示したが、発芽大麦の線維成分を経口摂取し、この線維成分の発酵により短鎖脂肪酸を大腸内に誘導して炎症性腸疾患特に潰瘍性大腸炎の治癒を試みている。この3年間の研究を通じて、短鎖脂肪酸の抗炎症作用についての基礎検討から、酪酸の誘導の臨床応用の可能性が明らかにできた。今後、臨床応用について、さらなる症例を積み重ねて、その効果について明らかにしていきたい。
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