研究概要 |
我々のグループでは胸腺、骨髄において未熟なリンパ球の分化・増殖をmediateするとされてきたIL-7が腸管上皮(杯細胞)にても発現し、腸管粘膜内T細胞の増殖を調節する機構の存在を初めて明らかとし(J Clin Invest95:2945,1995)、さらに、ヒト炎症性腸疾患におけるIL-7産生障害による活性化CD4陽性粘膜内T細胞のアポトーシス障害を証明した(submit for publication)。これらの結果を受けて、IL-7トランスジェニックマウスを作製し大腸炎の発症とその炎症へのCD4陽性粘膜内T細胞の関与を初めて明らかとした(J Exp Med187:389,1998) (Proc Natl Acad Sci、USA,96:7451,1999)。慢性大腸炎を自然発症するTCRαノックアウトマウスにおいて粘膜IL-7機構の異常が認められ、TCRα-/-×IL-7R-/-のダブルノックアウトにおいて慢性大腸炎の発症が抑制されることより、局所のIL-7およびIL-7R発現異常が慢性腸管粘膜炎症を引き起こすことを証明した。我々はすでに、IL-7レセプター陽性の活性化粘膜内T細胞を標的とし、IL-7発現調節、即ちリコンビナントIL-7の投与、抗IL-7レセプター中和抗体の投与による治療を開発した。これらの治療法の臨床応用を考えた場合、遺伝子組換え蛋白を用いるため非常に高価であること、また蛋白を活性を保ったまま病変局所へdeliverする有効な投与法が問題となっている。今回の研究は、これまでの研究とは全く視点を変え、生体に毒性のない腸管フローラ大腸菌を用いて、目的とする遺伝子組み換え蛋白を腸管内で産生させ、安価で腸管粘膜局所に高濃度でサイトカインやgrowth factorをdeliverする新しい治療法を開発を試みた。まず、ジフテリア毒素を結合させたIL-7(DAB389IL-7)を開発し、TCRαノックアウトマウスにおける慢性大腸炎に対する治療効果の検討を開始した。これまでに遺伝子工学的にDAB389IL-7の発現ベクターを合成し、大腸菌に発現させ、DAB389IL-7蛋白を精製する技術の開発に成功し、in vitroにおいてIL-7レセプター陽性細胞に対してアポトーシス誘導効果を確認した。現在、このDAB389IL-7蛋白発現組換え大腸菌をTCRαノックアウトマウスに対して経口投与し、慢性大腸炎に対する治療効果を検討しており、今後、ヒト炎症性腸疾患治療に新しい道が開けると期待される。
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