(1)TRのerbBリン酸化作用の解析 既に私達は(1)tomoregulin(TR)が消化管粘膜内、粘膜固有層線維芽細胞に局在して発現すること、(2)sf9細胞に強発現させたTRを精製し、精製TRがMKN28胃癌細胞株、erbB4発現CHO細胞株でerbB4のリン酸化を刺激するが、EGF受容体、erbB2、erbB3のリン酸化は刺激しないことを示している。しかし、erbB4リン酸化は全長TRでは極めて弱いため、EGFドメインcDNAをCOS7細胞に一過性に導入し、TR-HGFドメインをCOS7細胞上清より精製して検討したところ、MKN28細胞株におけるerbB4リン酸化を再確認しえた。 (2)MKN-1胃癌細胞株抑制作用の解析 MKN-1では充分なerbB4リン酸化は観察されないが、全長TRはMKN-1の増殖反応を抑制する。この抑制作用がfollistatinドメインの作用によるものかEGFドメインの作用によるものかを検討したところ、全長TRと同様の作用が精製EGFドメインにても観察されたことから、EGFドメインがMKN-1胃癌細胞株を抑制するものと思われた。またMKN-1胃癌細胞株ではerbBのリン酸化はEGFドメインによって確認しえないにも関わらず、MAP-kinase p44、p42のリン酸化が観察された。したがってMKN-1細胞株ではTR-EGFドメインはerbB1、erbB2、erbB3、erbB4以外の受容体に作用し、MAP-kinaseのリン酸化を刺激すると同時に、細胞の増殖反応を抑制するものと思われる。 (3)TR測定系の確立 私達はこれまで、TR蛋白に対する単クローン、多クローン抗体の開発に成功している。両抗体を用いたサンドイッチ法によるELISA系の開発に成功し、培養液中のTR濃度を測定したところ、高感度にTRの測定が可能であった。現在、血中TR測定の試みや、TR放出機序を検討中である。
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