一酸化窒素(NO)はスーパーオキサイドと極めて速やかに反応し傷害性の強いパーオキシナイトライトを形成する。今年度の研究では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支喘息、健常人の3群で、気道でのパーオキシナイトライトの産生量に相違があるか、又その産生量と閉塞性障害の程度に相関があるのか検討した。 化学発光法による呼気ガスの一酸化窒素(NO)濃度測定、及び4%高張食塩水吸入によって得られた誘発痰の分析を行った。誘発痰では、抗iNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)抗体染色による誘導型NO産生酵素の存在確認抗二トロチロシン抗体染色によるパーオキシナイトライト産生の定量化を行った。気道閉塞性障害程度は一秒量で評価した。 呼気NO濃度は、健常人(9.1±0.9ppb)、慢性気管支炎(11.3±1.1ppb)に比べ喘息で48.1±4.9ppbと有意に高い値であった。呼気NOガス濃度は喘息で、誘発痰中のiNOS陽性細胞数と正の相関を示したが、COPDでは示さなかった。喘息及びCOPDの誘発痰のパーオキシナイトライト産生は、iNOS陽性細胞数と正の相関を示し、その生成にiNOS由来のNOの関与が示唆された。さらにパーオキシナイトライト陽性細胞数、百分率とも健常人に比べ、喘息、COPDで亢進しており、両疾患間の比較では、COPDで有意に高かった。気道の閉塞性障害の指標である一秒量と誘発痰中ニトロチロシン陽性細胞数はCOPDで負の相関を認めたが、喘息では認めなかった。 今回の検討で、喘息、COPDでパーオキシナイトライトの産生増加が起こっていることが明らかとなった。特にCOPDにおいてパーオキシナイトライトの増加程度は顕著であり、COPD患者の閉塞性障害の程度と正の相関を示したことから、パーオキシナイトライトがCOPDの発症・増悪に大きく関与していることが示唆された。
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