本研究の目的は活性酸素・窒素種の慢性閉塞性肺疾患への関与を、動物及びヒトで検討することであった。まず動物実験ではiNOSノックアウトマウスでチロシンのニトロ化を完全に抑制し、気道炎症がどの程度制御されるか検討した。本モデルではニトロチロシンの産生が完全に抑制され、iNOS由来のNOの重要性が示された(小荒井晃他、Pulm Pharmacol Ther 2002;20:609-616)。 次に臨床検討では、誘発痰を用い慢性閉塞性肺疾患患者及び健常人で活性窒素の産生様式がいかように異なるかニトロチロシンの免疫染色で評価した。その結果、慢性閉塞性肺疾患患者ではニトロチロシン産生(チロシンのニトロ化の程度)量は健常人に比し有意に高く、その産生量は慢性閉塞性肺疾患患者の閉塞性障害の程度と相関していた。すなわち、活性窒素種測定は慢性閉塞性肺疾患患者の気道・肺の炎症マーカーとして有用で、且つその制御が治療につながることが示唆された。 さらに、ニトロチロシン量をより定量的に評価する目的でHPLCを用いことにも成功し、検体の総チロシンの何分子がニトロ化するかも評価可能となった(杉浦久敏他、Eur Respir J accepted)。 培養細胞を用い、炎症関連物質(サイトカイン、成長因子)の発現調節に関与すると考えられる、転写因子(NF-KB)のDNA結合活性と活性窒素の関連ををelectrophoretic gel mobility shift assay (EGMSA)にて検討する点の必要性が今後の課題として残された。
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