肺サーファクタント蛋白質A及びD関与の生体防御(自然免疫)の分子機構の解明

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12470136
• 研究機関: 札幌医科大学
• 研究代表者: 黒木 由夫 札幌医科大学, 医学部, 教授 (70161784)
• 研究分担者: 村上 聖司 札幌医科大学, 医学部, 助手 (40315487) ; 岩城 大輔 札幌医科大学, 医学部, 助手 (10315492) ; 相馬 仁 札幌医科大学, 医学部, 講師 (70226702)
• キーワード: 肺サーファクタント / 自然免疫 / SP-A / SP-D / リポ多糖 / ペプチドグリカン / CD14 / Toll様受容体

研究概要

肺サーファクタント蛋白質AおよびD(SP-AおよびSP-D)とマンノース結合蛋白質(MBP)は、C末端側に糖鎖認識領域(CRD)を有するC型レクチンのコレクチン・サブグループに属している。コレクチンは、複合脂質や病原微生物をリガンドとし、マクロファージとも相互作用を有して、呼吸器における自然免疫生体防御を担っている。一方、病原微生物およびその構成成分に対するパタン認識受容体であるCD14やToll様受容体(TLR)は、病原微生物に対する生体反応を惹起する重要な生体防御機能分子である。本研究は、SP-AやSP-Dのコレクチンとマルロファージ受容体であるCD14/TLRとの相互作用による自然免疫生体防御の分子機構を明らかにすることを目的として遂行された。以下に結果を要約する。
1.マクロファージ様細胞株U937細胞mRNAよりヒトCD14とヒトTLR2のcDNAをクローニングした。
2.SP-AとSP-DはCD14と結合するが、MBPもCD14に結合し、MBP-CD14相互作用はSP-Aと同様にペプチド-ペプチド相互作用であることを見いだした。
3.10個のロイシンリッチリピートモチーフ(LRR)を持つCD14の4つ欠損変異体を作成し、バキュロウィルス発現系およびCHO細胞発現系で蛋白質を発現させた。精製CD14欠損変異体とSP-Aとの結合をリガンドブロットにより解析したところ、SP-Aはwt sCD14と2LRR欠損のsCD14Δ277-310に強く結合し、5LRR欠損のsCD14Δ203-310には弱い結合性を示した。7LRR欠損のsCD14Δ151-310にはほとんど結合せず、SP-AとCD14との相互作用におけるLRRの重要性が示された。
4.呼吸器感染症におけるグラム陽性菌感染症も極めて重要である。SP-Aとグラム陽性菌の菌体成分であるペプチグリカン(PGN)との相互作用を調べた。SP-AはPGNに有意な結合性を示さなかった。PGNもLPSと同様にマクロファージに対して細胞応答を惹起する。U937細胞および肺胞マクロファージを用いた系で、SP-AはPGN惹起TNFα分泌を抑制することを見いだし、SP-AがPGNによって惹起される炎症に対して抑制的に働くことが示唆された。
5.PGNによって惹起される細胞応答に責任のあるTLR2の細胞外ドメインの重要性を調べるために、LRRを有するTLR2の細胞外ドメインを同じくPGNに結合してLRRを有するCD14に置換したCD14/TLR2キメラ体を作成してPGNに対する細胞応答をHEK293細胞でのNFΚB活性化を指標に調べたところ、キメラ体はPGNシグナルを伝達できず、CD14はTLR2に機能的に代替できないことが証明された。

研究成果

• [文献書誌] Saitoh M: "Importance of the carboxy terminal 25 amino acid residues of lung collectins in interactions with lipids and alveolar typeII cells."Biochemistry. 39. 1059-1066 (2000)
• [文献書誌] Takahashi H: "Serum levels of surfactant proteins A and D are useful markers for interstitial lung disease in patients with progressive systemic sclerosis."Am J Respir Crit Care Med. 162. 258-263 (2000)
• [文献書誌] Takahashi H: "Serum surfactant proteins A and D as prognostic factors in idiopathic pulmonary fibrosis and their relationship to disease extent."Am J Respir Crit Care Med. 163. 1109-1114 (2000)
• [文献書誌] Sano H: "Surfactant proteins A and D bind CD14 by different mechanisms."J Biol Chem. 275. 22442-22451 (2000)
• [文献書誌] Ueda T: "Effects of aging on surfactant forms in rats."Eur Respir J. 15. 80-84 (2000)
• [文献書誌] Bridges JP: "Pulmonary surfactant proteins A and D are potent inhibitors of lipid oxidation and oxidative cellular injury."J Biol Chem. 275. 38848-38855 (2000)
• [文献書誌] Cheng G: "Increased levels of surfactant proteins A and D in bronchoalveolar lavage fluids in patients with bronchial asthma."Eur Respir J. 16. 831-835 (2000)
• [文献書誌] 岩城大輔: "サーファクタント関連遺伝子"The LUNG Perspectives. 8. 304-310 (2000)
• [文献書誌] 佐野仁美: "気道免疫防御におけるSP-Aの役割"気管支. 22. 650-656 (2000)
• [文献書誌] 高橋亨: "GM-CSFノックアウトマウス"分子呼吸器病. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] Takahashi H: "Diagnostic significance of surfactant proteins A and D in sera from patients with radiation pneumonitis."Eur Respir J. (印刷中). (2001)
• [文献書誌] Chiba H: "Rat mannose-binding protein A binds CD14."Infect Immun. 69. 1587-1592 (2001)
• [文献書誌] 黒木由夫: "基礎生化学実験法 第5巻 第1部 第6章 サーファクタント"同人化学社. (2000)
• [文献書誌] 岩城大輔: "エンドトキシン研究 CD14との相互作用を介する肺サーファクタント蛋白質によるLPS誘導細胞応答の制御"菜根出版. (2000)
• [文献書誌] 黒木由夫: "Annual Review免疫 2001 CD14を介する肺サーファクタント蛋白質によるLPS誘導細胞応答制御"中外医学社. (2000)
• [文献書誌] 佐野仁美: "先端医療シリーズ9 呼吸器疾患-診断と治療の最前線-第1章呼吸器系の分子生物学 3.気道免疫防御機構と肺サーファクタント蛋白質"先端医療技術研究所. (2000)