研究概要 |
本年度は,多発性硬化症再発時の治療前後での,また,重症筋無力症における胸腺摘出術前後でのリンパ球のケモカインシグナル伝達系を解析した.多発性硬化症では髄液CD4Tリンパ球におけるTh1系ケモカイン受容体のCCR5とCXCR3の発現が増加していた.CCR5が再発時に一過性に発現が増加するのに対してCXCR3発現は高値を持続するなど,それぞれの受容体が異なる制御を受けている事が明らかになった.ケモカインのうちエオタキシン,RANTESは再発前後で変化しなかった.重症筋無力症の治療法として胸腺摘出術が重要だが免疫系への作用については不明のままであった.そこで,胸腺摘出術前後での免疫担当細胞のサブポピュレーション,機能およびケモカイン受容体発現レベルを経時的に解析した.その結果,胸腺摘出手術は各リンパ球分画に影響しない事,術前にはnatural killer細胞数が著明に増加しているが術後正常化する事を見いだした.すべての免疫系ケモカイン受容体の発現レベルを検討した結果,重症筋無力症患者のCD4T細胞ではTh1関連受容体CXCR3の発現低下とTh2関連受容体CCR3の発現上昇が認められたが,術後にこれらの異常は是正されて健常者と同じレベルとなった.MG患者のT細胞機能は胸腺摘出術前にはTh2優位であるが術後慢性期にはTh1/Th2バランスが是正される事を明らかにした.これらの研究成果によって胸腺摘出術の免疫学的意義を明らかにし得た.来年度は,Tリンパ球のホーミングに重要なケモカインであるCCR7シグナルの上記疾患での解析,抗原提示に重要な樹状細胞の検討,胸腺上皮細胞の異常について検討を進める.さらに,上記のケモカイン受容体を介するシグナルの制御による多発性硬化症,重症筋無力症の治療を目指したin vitroの実験もすすめていく.
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