研究概要 |
重症筋無力症患者の末梢血T細胞におけるケモカインシグナルを胸腺摘出前後で比較検討した.その結果,胸腺腫合併患者と過形成胸腺合併患者では,ケモカインシグナルが著明に異なることが明らかになった.とくにTh1シグナルに関与するケモカイン受容体であるCXCR3の発現レベルが胸腺腫合併患者において有意に減少していること,胸腺腫内CXCR3陽性CD4T細胞数が有意に増加していることが明らかになった.一方過形成胸腺合併患者のCD4T細胞ではTh2型ケモカイン受容体CCR3とTh1型受容体CCR1の発現レベルが有意に増加していた.これらのケモカイン受容体発現レベルは胸腺摘出手術後慢性期にはいずれの組織型の患者においても正常化していた.末梢血のナチュラルキラー細胞数およびナチュラルキラーT細胞数も過形成胸腺合併患者と胸腺腫合併患者の間に有意の差を認めた.このことから,重症筋無力症(とくに胸腺腫合併患者)ではTh1を介するシグナル異常が優位だがTh2シグナル変化も存在すること,これらの変化はステロイドや胸腺摘出術により正常化に向かうこと,臨床症状の変動を評価するうえでこれらのケモカインシグナルの解析が有用であることが明らかになった.胸腺におけるケモカイン発現レベルを一斉解析した結果,ケモカインCCL21の発現レベルが過形成胸腺症例でのみ選択的に増加しており胸腺腫では有意の増加が認められないことが明らかになった.胸腺細胞のCCL21遊走性も過形成胸腺のみで著明に亢進していた.リンパ球のリンパ組織への移行にはCCL21の受容体であるCCR7が不可欠であるため,CCL21の発現増加が過形成胸腺合併重症筋無力症患者の病因に直結していると考えられる.CCR7シグナルの抑制は重症筋無力症の治療に有用と思われる.
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