研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンの選択的細胞死を惹起して筋萎縮をもたらす進行性難治性筋疾患である。ALSの病態解明のために、変異SOD1遺伝子を導入したトランスジェニック(Tg)マウスモデルを用いて運動ニューロン死の機序について検討した。このTgマウスでは早期からPI3KやAkt, bcl2といった生存シグナルの低下が見られるが、我々は本研究において、その機序として低酸素刺激に対する血管内皮増殖因子(VEGF)誘導の障害によることを明らかにした。さらにラット脊髄神経根引き抜きモデルにおける運動ニューロン死において、AMPA型受容体のサブユニットGluR2の低下が重要な役割を果たしていることも見いだした。 一方、以上のような分子病態解明の研究と並行して、新しい治療法のin vivoモデルでの開発も同時進行で行い、微量注入浸透圧ポンプを用いてモデルマウスの脊髄腔内に神経栄養因子IGF-1を直接持続注入する治療法を確立し、その治療効果を検討し治療有効性を確認した。腰部脊髄標本を作成し、運動ニューロン細胞数を判定し病理学的にも治療効果を判定したところ、明らかな運動ニューロン数減少抑制効果が認められた。さらに、IGF-1投与脊髄では、生存因子である,bcl2,リン酸化AktとERKが上昇していることを見出し、これが運動ニューロン死抑制の機序として働いていることを明らかにした。ALS患者に対してもこの治療法の有効性を調べるために、患者の同意のもとに微量注入ポンプの皮下埋込みを行いIGF-1を定期的に投与した。この脊髄腔内への神経栄養因子持続注入療法の開発応用も当初予定数が終了し、解析の結果、IGF-1がALSの運動機能低下を遅延させることが判明した。 このように当初目標とした実験動物レベルとヒト臨床の両レベルでの総合的治療法開発の本研究計画は目標どおり達成された。
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