われわれは、レーザーマイクロダイセクション技術と、scFv(single chain variable fragment)ファージ抗体ライブラリーとを組み合わせ、組織切片上(in situ)に存在する極めて微量な抗原を同定する方法論:in situ phage screening(ISPS)法、を開発した。今回は、ヒト筋肉凍結切片をモデル系として行ったISPS法の実際について紹介する。 ヒト筋肉より、凍結切片を作成し、scFvファージライブラリーを反応させた。レーザーマイクロダイセクションにより、この筋肉切片より、40μx40μの微小領域を3枚切りだし、この面積(約5000平方μ)中に存在する、微量抗原に対するscFvファージをセレクションすることを、試みた。延べ300種類あまりのscFvクローンを解析し、38kDaおよび100kDaの未知抗原を特異的に認識する二種類のscFvファージと、アクチン(を含む複数の抗原)を認識する低特異性scFvファージが数種類、得られた。前者の特異的scFvファージを用いて、筋発現ライブラリーのイムノスクリーニングを行ったところ、38、100kDaの未知抗原は、それぞれトロポミオシンα、およびαアクチニン2と同定された。この結果は、2Dゲルから切り出した抗原の、マススペクトロメトリー解析によっても確認された。これらの抗原は、筋切片の当該面積表面においては、存在量は数ピコグラム以下と推定され、本ISPS法により、組織、あるいは病理切片中に存在する、ピコグラムレベルの未知抗原の同定が、可能であると考えられた。
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