研究課題
基盤研究(B)
本研究では、心不全の悪化過程におけるエンドセリン-1(ET-1)の病態生理学的役割について、分子生物学的・生理薬理学的手法を用いて研究した。心臓においてET-1は、心筋肥大促進作用や細胞傷害作用を有し、これらはGタンパクを介したイノシトールリン酸代謝の促進、MAPキナーゼの活性化などの細胞内情報伝達系を介する。不全心筋ではET-1の産生が増大し、ET受容体拮抗薬は心不全動物の死亡率を著明に改善する。不全心筋にて各種の心筋遺伝子の発現が変化しており、これらが心不全の進展に関与していると考えられる。心不全ラットにて左室におけるカルシウム調節蛋白(リアノジンレセプターと心筋小胞体カルシウム-ATPase)の遺伝子の発現は減少していたが、ET拮抗薬はそれらを改善した。ゆえに、不全心筋にて細胞内カルシウム調節が異常になるが、ET拮抗薬はこの異常を分子レベルから改善し心不全を改善していることが示唆される。また、不全心筋の分子マーカーであるANPおよびβミオシン重鎖の各遺伝子の発現変化は、ET拮抗薬により改善した。不全心筋におけるET-1遺伝子の著明な発現増大には、いくつかのメカニズムが関与する。心筋において、転写因子であるGATA-4/5/6が発現しており、これらの関与が考えられる。また、不全心筋では脂肪酸代謝障害によりエネルギー不足状態にあり、その代償として解糖系酵素群の遺伝子発現を増大させる転写因子であるhypoxia-inducible factor(HTF)-1αが誘導される。ET-1遺伝子5上流にはHIF-1αの認識配列が存在する。種々の実験により、不全心筋におけるエネルギー産生障害が、HIF-1αの誘導を介してET-1発現を転写レベルで亢進させて心不全を悪化させる分子メカニズムが存在することが判明した。また、PPAR-αの活性化は、AP-1の活性化を抑制することによりET-1による心肥大を抑制するが、それは、JNK pathwayの抑制を一部介していることが示唆された。本研究において、ET-1が心不全の悪化過程において重要な役割を演じ、ET-1を遮断することが心不全の有効な治療法となることが示された。
すべて 2002 2001
すべて 雑誌論文 (13件) 図書 (1件)
Journal of the American College of Cardiology vol 40
ページ: 175-181
Circulation vol.106
ページ: 1991-1998
ページ: 2188-2193
Journal of the American College of Cardiology 40(1)
Circulation 106(15)
Circulation 106(17)
American Journal of Physiology 283(5)
ページ: H1750-H1760
American Journal of Physiology vol280
ページ: R1399-R1406
Circulation vol 103
ページ: 2387-2394
American Journal of Physiology vol. 281
ページ: R2029-R2036
American Journal of Physiology 280
Circulation 103(19)
American Journal of Physiology 281(6)
ページ: R2029-2036