研究概要 |
自己免疫性腸症は消化管上皮細胞に対する自己免疫反応により難治性下痢を生じる疾患である.特にX連鎖遺伝形式をとり,内分泌腺を含む多彩な自己免疫疾患およびアレルギー疾患を合併するものは,immunedysregulation,polyendocrinopathy,enteropathy,X-linked syndrome(IPEX)と呼ばれている.本研究は,IPEX患者のもつ自己抗体が認識する抗原の同定し,その機能の解析および診断的意義の確立を目的としたものである. まず間質性腎炎を合併したIPEX患者血清でヒト十二指腸由来のλgt1l cDNAライブラリーをスクリーニングし,新規蛋白である自己免疫性腸症関連75kDa抗原(AIE-75)を同定した.AIE-75は主として小腸・腎近位尿細管に発現しており,特に刷子縁に強く分布していた.また全長552アミノ酸からなり,これが3つのPDZドメインを介して他の蛋白と結合するリンカー蛋白として機能している可能性が示唆された.実際に結合相手として,癌抑制性蛋白としての機能が推測される新規蛋白MCC-2を同定した.さらにAIE-75の過剰発現が細胞周期の異常(G2/M arrest)を引き起こすことを明らかにした.同時に,AIE-75が内耳上皮細胞にも発現しており,その変異が症候性難聴の1つUsher症候群IC型を引き起こすことも明らかにした.一方,海外からの依頼検体(血清)を中心に抗AIE-75抗体を検討し,本抗体が自己免疫性腸症の,特に血清が免疫組織学的に刷子縁と反応するタイプの診断に有用であることが確認された.さらに,IPEXの診断法を確立するため,近年IPEXの責任遺伝子として同定されたFOXP3遺伝子の遺伝子診断を本邦2症例で試み,T227欠失によるframe-shiftとIle363Valミスセンス変異という2つの新たな変異を見いだした.
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