研究概要 |
腸管出血性大腸菌の付着関連因子Translocated intimin receptor(Tir)の保有状況と遺伝子多型を検討した。対象は本県で分離されたEHEC89株(O26,19株;O86,1株;O111,13株;O114,1株;O157,55株)。Tir遺伝子の検出はPCR法を用いた。遺伝子多型をみるために制限酵素pvuIIによる切断パターンを検討(PCR-RFLP),一部の株についてPCR産物のシークエンスを行いアミノ酸配列を解析した。EHEC89株中88株(98.9%)がTir陽性であった。pvuIIによる切断パターンは,O26,O114,O157由来のTir-PCR産物は切断されたが,O111由来のものは切断されず,O抗原型別に遺伝子多型が推定された。intimin結合部位(297-311)のアミノ酸配列は,これまで報告されているEHEC O157:H7 86-24(AF125993)に比べて,O157が100%,O26が93.3%,O114が86.7%,O111が73.3%のホモロジーを示し,アミノ酸配列に一部変異がみられた。なおTir陰性株はO86の1株で,腸管集合性大腸菌付着因子AggRを保有していた。本県分離のEHECは,高頻度にTirを保有していることが明らかになった。Tirのintimin結合部位にO抗原型別のアミノ酸配列多型が存在するため,intiminとの親和性の違いや免疫原性の違いが存在する可能性が示唆された。また一部にTir陰性株も存在し,他の付着機構の関与にも注意を要すると思われる。
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