研究概要 |
放射線によりDNAには様々な損傷が生じるが、細胞の生死にとって重要なのはDNA2本鎖切断であることがわかっている。DNA2本鎖切断は非相同的末端結合機構と相同的組換えにより修復される。このうち、人間の細胞では主に非相同的末端結合機構により修復が行われることが報告されている。我々は、非相同的末端結合機構の最初のステップであるDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の活性がP13-キナーゼ阻害剤の1つwortmanninにより阻害され、放射線感受性が高められることを報告した(Hosoi et al., Int. J.Cancer 1998)。さらに、我々は培養食道癌細胞の放射線感受性とDNA-PK活性の間に相関関係が認められることを明らかにした(Zhao et al., Clin. Cancer Res.2000)。これらのことより、DNA-PK活性阻害により放射線抵抗性癌細胞を選択的に放射線増感できる可能性が示唆される。我々は、直鎖状のS化1本鎖DNA(phosphorothioate oligonucleotides)がDNA-PK活性を強力に抑制することを見出した(Hosoi et al., Brit. J.Cancer in press)。S化1本鎖DNAは50nMの濃度でDNA-PK活性をほぼ完全に抑制した。この現象に塩基配列特異性は認められないため、アンチセンスDNAとして作用しているのではないと考えられた。さらに、直鎖状DNA類似物質がDNA-PK活性を抑制することを見出した。直鎖状DNA類似物質が細胞レベルでDNA-PK活性を抑制するかどうかを検討した結果、細胞上清中に加えた場合にもDNA-PK活性が抑制されることが明らかになった。さらに放射線によるDNA2本鎖切断の修復を抑制するかどうかを、パルスフィールドジェルを用いて検討した結果、2本鎖切断の修復は有意に抑制された。
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