研究概要 |
慢性脳血流低下によって生ずる老年痴呆の分子発症機構の解明を目指して、モデル動物としての両側総頸動脈永久結紮(2VO)ラットの脳中での遺伝子発現変化を検討し、幾つかの因子の単離を行った。そのうちで、新規かつ発現変化の著しい2つの因子について、さらに詳細に検討した。虚血後4日において発現増大する因子として単離したvof-21は、全長は4,885ntであり、転写されるアミノ酸は265残基と推定された。発現のピークは虚血後7日であり、その後ほぼ対照群レベルに戻った。脳、肺に発現が多く、次いで胸腺での発現が多かった。またin situ hybridizationでの結果より、青班核や海馬での発現が顕著であった。一方、虚血後4ケ月において発現の増大していた因子としてvof-16を単離した。全長は2,098nt翻訳蛋白は73残基と推定された。脳中での発現はPCRでの結果では、海馬、皮質の多く検出され、in situ hybridizationの結果では、海馬の他に、梨状葉、大動脈周囲やtenia tectaに多く分布していることが検出された。これら2種の新規配列は、培養細胞NG108-15中に存在することがPCR法により確認された。そこで、この細胞での発現を抑制することを目的として、細胞内へのアンチセンスの導入条件を検討した。その結果、pH感受性のリポソームを用いると、効率良くアンチセンスを導入できることが明かとなった。その手法を用いた単離因子の生理機能については、現在Ca2+チャネルをはじめとしたイオンチャネルとの関連性の観点から検討を続けている。本研究課題を遂行するに際し、いくつかの新たな手法の開拓も行うことができた。5'RACE法の改良(未発表)ならびに、PCR法に基づくsense鎖の簡便な決定法である。また、神経分化とセロトニン2Cサプタイプ受容体との関連性に関する知見もNG108-15細胞を用いて得られた。
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