サイトカインによる造血前駆細胞の生存維持システムの解明と、その機能異常が白血病の発症に関与するメカニズムの解析がわれわれの研究室の主たる研究テーマである。当研究費ではBcl-2スーパーファミリーに属するBimに焦点を当てた。BimはBH3ドメインのみを有してアポトーシス抑制的なBcl-2ファミリーメンバーの機能を阻害する、BH3細胞死誘導因子のメンバーであるが、Bim欠損マウスでは骨髄過形成と、末梢白血球数の増加が認められ、この因子が造血系のホメオスタシスの維持に重要な役割を果たしていることが明らかになった。われわれは、IL-3依存性細胞株がサイトカイン欠乏によるアポトーシスに陥る際に転写レベルで発現が誘導される、逆にいえば、造血前駆細胞がサイトカインの支持の下、生存を維持できるのはBimの発現が抑制されていることを示した。一方、オーストラリアのグループはBimの機能を調節する因子として分子モーター、ダイニン複合体のサブユニットLC8を同定した。発現調節とLC8による機能調節がどのような役割分担を行っているかを検討するために、LC8の欠損マウスの作成を開始した。 この作業の過程で従来知られていたLC8(LC8α)と94%のアミノ酸相同性を有する新規因子LC8βを同定した。LC8βはエクソン・イントロン構造はLC8αと共通しており、共通の祖先遺伝子由来であると考えられたが、マウス、ラットでもヒトとアミノ酸配列が完全に一致する因子が存在することから、哺乳類では両因子が役割分担をしている可能性が考えられた。臓器や組織によって発現分布が異なっているが、多くの細胞ではα/β両因子が発現していた。こうした結果を得たため、両方の因子を欠損させ、それらのマウスをかけ合わせてダブルノックアウトマウスを作成することを計画し、現在研究を継続中である。
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