研究概要 |
ヒト白血病では高頻度に特異的な染色体転座が見られ、その結果生じる融合遺伝子産物の発現や発現異常が白血病発症に関与すると考えられる。二次性MDS(骨髄異形成症候群)の患者で見られたt(2;8)染色体転座の解析により、ヒストンアセチル化酵素MOZがこの転座により分断されることを明らかにした。一方、AML1遺伝子はヒト白血病において最も高頻度に染色体転座の標的となり、他の遺伝子と融合して異常な融合蛋白質を生じる。これまでにAML1複合体を精製することによりヒストンアセチル化酵素p300/CBP及びMOZ、前骨髄性白血病タンパク質PMLがAML1複合体に含まれることを明らかにした。MOZはAML1による転写を顕著に促進し、急性骨髄性白血病で見られるt(8;16)転座により生じるNOZ-CBP融合タンパク質は逆にこれを抑制した。PMLのアイソフームの中でPML-1のみがAML1bと結合し、この結合にはAML1bのC末端領域とPML-IのC末端領域が必要であることが示された。PML-IはAML1に依存した転写と骨髄性細胞の分化を促進し、これらの活性にはPML-IのSUMO-1化が必要であった。PMLはnuclear bodyと呼ばれる核内の斑点状の領域に局在することが知られているが、PML-IはAML1とp300をこのnuclear bodyに共局在させることが明らかとなった。これらの結果から、PML-IはAML1とその転写共役因子であるp300/CBPをnuclear bodyに集積させることにより複合体形成を促進し、AML1を介した転写を活性化して分化を誘導すると考えられる。AML1複合体因子であるPEBP2β,MOZ, p300/CBP, PMLはいずれもヒト白血病における染色体転座により異常な融合タンパク質を生じることから、AML1複合体の機能異常が白血病発症の主要な原因であることが示唆された。
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