腎血行動態は高血圧の発症や腎不全の進行に重要な役割を果たす。腎血行動態は腎糸球体輸出入細動脈と緻密斑より構成される傍糸球体装置(JGA)により制御されている。最近、JGAの機能調節には、一酸化窒素(NO)、アデノシン(Ado)やアラキドン酸のチトクロームP450代謝産物である20-HETEとEETが重要な役割を果たすと示唆されている。本研究では、JGAを単離灌流する研究手法を用いて、その機能を直接検討した。その結果以下のことが明らかとなった。1)緻密斑灌流液のNaCl濃度を上げると輸入細動脈が収縮する尿細管糸球体フィードバック(TGF)現象はAdoのA1受容体を阻止すると消失する。一方、TGFは低用量Adoの血管内投与により亢進するが、尿細管内投与では変化がない。このことより、TGFにはA1受容体の関与が必須であるが、その作用部位はJGA間質・血管系であると考えられる。2)緻密斑に存在する神経型NO合成酵素(nNOS)を急性に阻害するとTGFによる輸入細動脈の収縮反応が増強するが、nNOSが欠損したマウスでは何らかの代償機構によりTGFの反応性は一定に保たれていた。また、減塩食下では緻密斑でのNO合成が亢進し、アンジオテンシII(AII)の作用に拮抗して腎血流量を維持している。3)輸人細動脈におけるAIIの血管収縮作用はEETの産生を抑制することにより増強する。この作用はAT2受容体を阻止すると見られなくなり、AIIがAT2受容体を介して血管拡張物質のEETの産生を刺激すると考えられる。4)ACE阻害薬の慢性投与は腎臓ミクロゾームにおけるP450の酵素発現を誘導し、EET及びHETE産生を刺激する。その機序には、ACE阻害薬によるキニン活性の亢進が関与する。以上のように、JGAによる糸球体血行動態の調節におけるNO、HETEやEETの役割が明らかになった。
|