研究概要 |
退行期骨粗鬆症は加齢にともなう骨量の減少が病的に亢進した状態とそれに基づく腰背痛や骨折などの臨床症状からなる症候群である。本症は罹患者とくに高齢者の生活の質を低下させ、その病態の解明とともに予防法、治療法の確立が強く望まれている。本症のうち大きな割合を占める閉経期骨粗鬆症の発症には閉経期における体内環境の大きな変化、つまりエストロゲン欠乏状態への移行に対する適応性の差異が大きく関わっていることが予想される。そこで、本研究は1)骨におけるERα、ERβ受容体の下流に存在する応答遺伝子群の性状を分子レベルで解明し、2)遺伝子改変動物とヒト遺伝学的解析を用いて生物個体レベルでERならびにそれら応答遺伝子の骨代謝における機能を解析することにより、両受容体と応答遺伝子の生理的役割、病態における意義を明らかにすることを目的とする。昨年度に、ERαとERβ両方のシグナルを阻害するドミナントネガティブ体ERα1-535を見出し、これを人工的に発現させたトランスジェニックラットを作製してERの生体内での機能を検討したところ雌のトランスジェニック動物では、骨代謝においてエストロゲンに対する応答が低下していることを示した(J.Biol.Chem., 275、21372-21379, 20000)。本年度は、このエストロゲンシグナルの重要性をさらに雄で示した。すなわち、雄の骨代謝においても女性ホルモンであるエストロゲンシグナルが重要であることを示した。さらに、DNAチップを用いて、骨におけるエストロゲンシグナルの標的を探索し、興味深い候補遺伝子を複数同定している。同時に、SNPを活用して、エストロゲン作用経路に関連する遺伝子多型と骨量との相関を解析し遺伝子診断への応用を目指した。これらの研究は、骨粗鬆症におけるエストロゲン作用のカスケードを解明するために有意義なものであり、診断/治療への応用の基盤となる。
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