研究概要 |
進行性腎疾患に対するアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)の腎保護作用が明らかになっている。ACE-I服用時に血中濃度が増加する幹細胞増殖抑制因子N-Acetyl-seryl-aspartyl-lysyl-proline(Ac-SDKP)に注目し、糖尿病性腎症を含めた進行性腎疾患の発症進展に重要な役割を演じているTGF-βの細胞外基質産生作用に対するAc-SDKPの効果を検討した。ヒト培養メサンギウム細胞において、TGF-β1刺激後のplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1),alpha2(I)collagen 2(COL1A2)の遺伝子発現はAc-SDKPの前孵置により有意に抑制された。Ac-SDKPはTGF-β1刺激によるSmad 2のリン酸化、Smad 2,3の核内移行、及びSmad結合領域を含むレポーター活性を抑制した。また、Smad 2リン酸化抑制効果にはAc-SDKPの前孵置1時間以上が必要であった。一方Ac-SDKPはTGF-β1によるERKのリン酸化を抑制しなかった。Ac-SDKPは抑制型SmadであるSmad7の遺伝子発現を増強しなかった。過剰発現したSmad7はAc-SDKPにより核から細胞質に局在変化した。また、この局在変化はAc-SDKP孵置1時間後から認められた。 以上の結果より、Ac-SDKPは抑制型SmadであるSmad7の核から細胞質への移行を促進することにより、受容体調節型Smadのリン酸化、核内移行を抑制し、細胞外基質関連蛋白であるPAI-1、COL1A2の発現を抑制することが明らかとなった。本研究により、ACE-IはAc-SDKPの血中濃度増加を介した新たな抗線維化作用を有することが示唆され、Ac-SDKPが腎疾患に対する創薬を考えていく上で新たな治療戦略となる可能性が示された。
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