研究概要 |
正常細胞では遺伝子を発現せず,膵癌で高率に遺伝子を発現するプロモーターを同定することを目的として,膵癌で高発現する癌抗原のスクリーニングを行った.その結果,膜蛋白である癌抗原RCAS1が膵癌においては約90%の頻度で強発現していることが確認された(論文投稿中).また,RCAS1のmRNAが膵癌細胞株9株中8株で発現していることがRT-PCR法で確認された.さらに,RCAS1遺伝子のプロモーター領域の塩基配列が解読されたことを機にこれをヒト胎児腎細胞株である293細胞よりクローニングした.RCAS1プロモーターをルシフェラーゼ発現ベクターであるpGL3に導入し,膵癌細胞株にてルシフェラーゼアッセイを施行中である. また,膵癌特異的遺伝子プロモーターとしてCEAプロモーターによる治療遺伝子発現系を構築した.アデノウイルスにCEAプロモーターおよび治療遺伝子としてras抑制変異体N116Yを導入したベクター(AdCEA-N116Y)を構築した.In vitroにおいてAdCEA-N116Yは正常細胞には影響せず,CEA産生膵癌細胞株でのみ遺伝子を発現し,その増殖を抑制した. 一方,膵癌移植モデルとして,肝転移モデルおよび腹膜播種モデルが作成された.これらにおいて,AdCEA-N116Yはコントロールベクターと比較して有意に癌再発を抑制した.また,遺伝子発現をβ-ガラクトシダーゼ染色で検討した結果,周囲の正常組織では遺伝子の発現は確認されず,癌再発巣でのみ遺伝子発現が確認された.このことから,極めて副作用の少ない遺伝子導入系が構築されたことが確認された.現在RCAS1遺伝子と治療遺伝子を組み合わせたアデノウイルスベクターを構築中である.
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