研究概要 |
インテグリン複合体は,細胞運動能と癌転移に関与している.癌のprogressionの過程で,この複合体の関連遺伝子MRP-1/CD9やKAI1/CD82,インテグリンα3などで発現が減弱し,複合体に機能破綻が起こり,高転移能の癌細胞が出現してくる.我々は癌転移抑制を目的に,インテグリン複合体関連遺伝子による癌遺伝子治療の研究を行っている.臨床応用可能な導入法を選択するため,アデノウィルベクター,アデノ随伴ウィルス(AAV)ベクター,トランスフェリンーDNA複合体などを試みた. その結果,CAGプロモーターとKozak's配列を挿入しCOS-TPC法で作製したアデノウィルスベクター(Ad5-CD9,Ad5-CD82)が,最も良好な遺伝子導入効率を持っていた.現在までに,AAVベクターの作製に未だ成功していないが,これはMRP-1/CD9とKAI1/CD82が共に塩基配列が短く,AAVベクターのパッケージングにサイズが合わないためと考えられた.また,トランスフェリンーDNA複合体は導入効率が低く,臨床応用にはまだ不適当であった.我々の研究結果から,CD9欠損癌細胞株にAd5-CD9を,CD82欠損癌細胞株にAd5-CD82を,トランスフェクションすると,上皮系癌細胞では共に高率に導入遺伝子と目的蛋白の生理的な発現が認められた.トランスウェルの実験でも癌細胞運動能を高率に抑制した.更に,ヌードマウスによる癌自然転移モデルにそれぞれの欠損遺伝子導入ベクターを投与すると,移植後生着した主腫瘍に対する増殖抑制効果はなかったが,肺転移抑制効果が認められた.一方,増殖度の高いHT1080への導入実験では,発現欠損細胞株の増殖が早期に優位となり,非増殖型アデノウィルスベクターの問題点と考えられた.また,血球系細胞ARH-77への導入効率も40%と不良であった.今後も,腫瘍選択的増殖型アデノウィルスベクターなどを含め研究を続けてゆく.更に現在我々は,これら遺伝子の機能を解明するために,cDNAマイクロアレイ解析をも行っている.
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