研究概要 |
門脈塞栓肝に肝幹細胞の肝上皮細胞(LEC)を誘導してこれを分離し、細胞工学的に肝細胞に分化させたうえで、肝類似に血行変換をした脾に移植して代用肝を作成することが研究の目的である。本年度は、分離LECの肝特異的転写因子発現の解析とそれに基づく細胞工学的転写因子導入による肝細胞成熟化ならびに、ヒト門脈塞栓肝におけるAFP陽性細胞の出現を細胞回転、アポトーシスとともに検索した。 1.肝臓分化過程において重要な肝臓特異的転写因子のうち、HNF3a, HNF3b, HNF4, HNF1a, C/EBPのラットLECでの発現をNorthernブロット法で検討した。その結果LECがHNF3bを発現していた。そこで燐酸カルシウム共沈法でLECにHNF3a cDNAを導入し、培養後にアルブミン産生細胞に分化するか検索した。しかしアルブミンの発現は認めず、HNF3a導入のみでは肝細胞へのin vitroでの分化誘導は困難と考えられた。 2.ヒト門脈塞栓肝葉13例でAFPとアルブミン免疫組織染色を行った。塞栓前AFP陽性細胞数は10.3±5.9(平均±標準偏差)/1000肝細胞であったが、塞栓後40.7±9.7に増加した。AFP陽性細胞は門脈周囲に、より優位に増加していた。特に門脈塞栓による小葉の萎縮、脱落が著しい例でAFP陽性細胞増加が顕著で、アポトーシス細胞数と比例した。一方、PCNA染色でみた非塞栓葉の肝細胞再生度とAFP陽性細胞数は反比例の相関を示した。 以上から、肝臓特異的転写因子導入による肝細胞分化に成功せず、今後は肝非実質細胞の同時移植などによりLECの成熟化について検討する。また、ヒト門脈塞栓肝でLEC様の未分化な細胞が多数存在することが示され、今後本法の臨床応用へ向けてその分離・培養を行う。
|