研究概要 |
転移は癌患者にとっては最も脅威的な存在である。この癌の浸潤・転移のステップには細胞外基質の破壊と浸潤、そして血管新生が最も強く関与しているが、その機序についてはまだ十分理解されているとはいえず、宿主側の微小環境も大きく関与しているものと思われる。我々は転移成立に関与するマトリックスメタロプロテアーゼと血管新生因子に注目し、癌転移モデルや臨床材料を使用してその機序解明と制御についての検討を行った。我々は既に胃癌細胞より産生されるMT1-MMPの高発現し、腫瘍間質に存在するMMP-2の活性化に関与し、基底膜破壊に関与することを確認している。更にMMP-7も胃癌(分化型癌)や大腸癌の転移促進に寄与することが判明した。一方血管新生因子についてもVEGFや腫瘍間質(マクロファージなど)に存在するPD-ECGF, TGF-alphaなどがVEGFの発現を昂進し、転移促進に相乗的作用を有することを示した。臨床的にも術前に胃癌の生検材料を用い、MMP-2,VEGF, TGF-alph, E-cadherinなど転移関連遺伝子をISH(in situ mRNA hybridization)を用い検討したところ転移などの悪性度と相関すること、転移の予知が可能であることなどが判明し、臨床応用可能な意義ある所見であった。また大腸癌の腫瘍先進部に特異的に発現するMMP-7はベーターカテニン(beta-catenin)の活性化によって誘導されることを見出し、臨床材料を用いて悪性度と相関することを発表し、注目を集めた。最近の知見ではベーターカテニンの活性化はMMP-7などの基底膜破壊に関与していることが判明し、特に大腸癌では腫瘍再発や予後不良の一因になることが判明した。治療実験としてポリアミン阻害剤であるDMFOはアポトーシスを誘導するとともに血管新生を抑制することを転移モデルを使って証明した。このようにMMP阻害剤や血管新生抑制剤、あるいはその他の分子標的治療が腫瘍の増殖を止め、かつ副作用もコントロールされ、今後の癌治療の主流になりうるものと考えられる。
|